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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(オ)250号 判決 1984年9月21日

上告人

西山隆

右訴訟代理人

田辺善彦

被上告人

株式会社東邦相互銀行

右代表者

安倍茂春

右訴訟代理人

大白勝

後藤由二

上谷佳宏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田辺善彦の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人には訴外会社から所論の手形用紙を回収すべき義務がないとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(大橋進 木下忠良 鹽野宜慶 牧圭次 島谷六郎)

上告代理人田辺善彦の上告理由

標記事件についての上告理由は次のとおりである。

一、原判決は、「控訴人に取引先の未使用手形用紙の回収ないし悪用防止義務はない」と判断をしているが、法の解釈・適用を過つた違法がある。

二、未使用の手形用紙を回収しないまま放置するときは、悪用されて第三者が不測の損害を被る危険が大であるから、銀行としては手形用紙の返還を受けるため相当の措置を講じ、かつ悪用防止のため手形について取引先から事情を聴取すべきであつて、これを漫然と放置した場合、これによつて第三者が被つた損害を賠償するのが当然である。

三、本件においては控訴人銀行は、「未使用の手形用紙を回収する」何等の義務も尽くさず、かつ当座取引解約後も株式会社銀河の依頼に基づき、漫然と手形の決済を続けたものである。このような場合銀行としては、「未使用の手形用紙を回収すべき」旨を取引先代表者に告げるとともに、「取引解約後決済する手形が、取引解約当時すでに振出交付されたものか否か」を確認し、かつ「約束手形の枚数、額面、原因関係等」について詳細に聴き取りをなし、第三者に不測の損害が発生しないようにすべき注意義務があるところ、これを怠つたため被控訴人に損害が生じたものである。本件のような場合、控訴人銀行は被控訴人の被つた損害を賠償すべきことは当然である。

四、右の点において原判決には法の解釈適用を過つた違法がある。

《参考・第二審判決理由(抄)》

「2 次に、前記認定のとおり別紙貸金一覧表記載の5、8の貸金について振出された各約束手形(甲第五、第八号証)は本件解約後に振出されたものであるところ、被控訴人は控訴人には本件解約後当座勘定取引契約に基づき控訴人が交付した銀河の未使用手形用紙を回収し又はその悪用を防止すべき義務があるのにこれを怠つた過失がある旨主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない丙第五号証によると、控訴人の当座勘定規定三四条三項は、「当座勘定取引が終了した場合には、未使用の手形用紙は直ちに当店(控訴人)へ返却するとともに、当座勘定の決済を完了してください」、と定めていることが認められるから、控訴人が取引先との当座勘定取引契約を解約した場合において、取引先に交付された手形用紙の未使用分については、当座勘定取引契約に基づき、取引先が控訴人に対しその返還義務を負い、控訴人が取引先に対しその返還請求権を有することが明らかであるが、右返還請求権を行使するかどうかは、故意に第三者の権利を害するなどの特段の事情のない限り、控訴人が自由に決定し得るものというべきである。

もつとも、手形に対する一般的信用を考えると、銀行は、取引先との当座勘定取引契約を解約した場合において、取引先に交付した手形用紙の未使用分があるときは、その儘放置することなく、右返還請求権に基づき、取引先に対し書面又は口頭で未使用手形用紙を速かに返還すべき旨催告するなどその回収を図るのが相当ではあるが、被控訴人主張のような銀行の取引先の未使用手形用紙に対する回収ないし悪用防止義務については、何らの法的根拠もないから、到底これを認めることができない。

そうすると、控訴人に取引先・銀行の未使用手形用紙に対する回収ないし悪用防止義務のあることを前提とする被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。」

《第二審判決引用の第一審判決理由部分》

「銀河は昭和五三年六月一五日から八月五日までの間、原告から従業員の給料として金五〇〇万円を借受け、その支払のためその利息分を加算した金員合計金五四六万九〇〇〇円を額面金額として甲第五、第八号証の各約束手形を同年八月五日に振出して原告に交付したものであることが認められる。」

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